社内の規程やマニュアルをAIに読ませて、質問に答えさせたい。こうした相談で実際に時間がかかるのは、AIの設定ではなく、読ませる資料の整理であることがほとんどです。資料が散らばっていたり、古い版が混ざっていたりすると、AIは古い情報や誤った情報をもとに回答してしまいます。ここでは、AIに社内データを渡す前に行う整備の手順を整理します。
社内文書を参照して答えるAIは、渡された資料の範囲で回答を組み立てます。言い換えると、資料の質がそのまま回答の質になるということです。同じ規程の新旧2つの版が残っていれば、AIはどちらを参照するか分かりません。担当者しか見てはいけない資料が混ざっていれば、本来見られない人に内容を答えてしまうおそれがあります。
運営者自身も、自社サイトの運用で過去の記事データや設定ファイルをAIに読ませる場面がありますが、置き場所が整理されていない時期は、古いファイルを参照した出力にたびたび悩まされました。置き場所と版をそろえただけで、出力の手直しが目に見えて減った経験があります。
最初に、どの業務のどの質問に答えさせたいかを決め、そのために必要な資料だけを対象にします。「総務の規程に関する問い合わせ」なら、就業規則、各種申請の手順書、よくある質問集といった具合です。全社のファイルを一度に整理しようとすると、ほぼ確実に途中で止まります。
対象の資料を、共有フォルダやクラウドストレージの決まった場所に集めます。個人のPCやメールの添付ファイルに残っている資料も、ここで回収します。フォルダの構成は、利用者が探す単位(部署別、手続き別など)に合わせると、後の管理が楽になります。
同じ資料の古い版は、AIが参照しない場所に移します。ファイル名に「最新」「確定」と書かれたものが複数あることは珍しくありません。改定日と正本の所在をファイル名やフォルダで判別できるようにするルールを決め、資料ごとに更新の責任者を置きます。資料が改定されたときにAI側の参照データも更新されるよう、更新の手順まで決めておくことが重要です。
資料ごとに、誰が見てよいものかを確認します。全社員が見てよい資料と、特定の部署だけが見るべき資料を、同じAIに読ませるのは避けるのが基本です。また、個人情報が含まれる資料は、AIに読ませる必要があるかを改めて検討します。個人情報保護委員会は、生成AIサービスに個人情報を入力する際の留意点を公表しており、社内での判断の参考になります。
すべてがそろわなくても始めることはできますが、そろっていない項目は、AIの回答が誤る原因として把握しておく必要があります。
資料の置き場所と版が整うと、AIを使わない場面でも、探す時間や古い資料による誤りが減ります。データ整備はAI導入の前段の作業というだけでなく、それ自体が業務改善になります。社内向けに説明する際も、この点を効果として示すと理解を得やすくなります。
社内文書を参照するAIの仕組みは社内文書を検索できるAI(RAG)とは、情報の持ち出しを防ぐ考え方は生成AIの情報漏えいリスクと対策で解説しています。
整備にかかる時間は、資料の量と散らばり方によって大きく変わります。対象を1つの業務に絞れば、数十件程度の資料であることが多く、担当者が数日から2週間程度で一巡できる規模に収まることがよくあります。
進め方のコツは、整備の作業そのものを「誰が・いつまでに」行うか決めてしまうことです。データ整備は急ぎの業務に押されて後回しになりやすく、期限がないと終わりません。また、資料を集める段階で、各部署に「どの資料が正本か」を確認する必要があるため、推進役から依頼を出すより、部署の責任者から指示してもらう方が早く集まります。
整備が終わったら、その状態を保つための簡単なルールを決めます。新しい資料は決まったフォルダに置く、改定したら古い版をアーカイブに移す、といった2〜3個のルールで十分です。ルールが多すぎると守られなくなるため、最小限から始めて必要に応じて追加してください。
全社を整理する必要はありません。最初にAIを使う業務で必要な資料だけを対象に整理すれば十分です。範囲を絞ることで、整備の作業量が現実的になり、効果も早く確認できます。
削除する前に、保存期間の社内規程や法令上の保存義務を確認してください。削除できない資料は、AIが参照しない場所に移す「アーカイブ」の扱いにするのが安全です。AIが古い資料を参照して誤った回答をするのを防げます。
頻繁に参照する資料に限ってスキャンし、文字を読み取れる形(OCR処理済みのPDFなど)にします。スキャンした後は、どちらが最新の正本かを明確にし、紙と電子で内容がずれないように管理してください。
記事中の考え方は、上記の公的資料の内容を踏まえて整理しています。制度・ガイドラインは改訂されることがあるため、最新版をご確認ください。
本記事は一般的な考え方を整理した参考情報であり、特定製品の推奨や導入の成否・効果を保証するものではありません。実際の検討・判断は、自社のシステム仕様・社内規程・契約・関連法令に照らして専門家とご確認ください。